動物でヘム生合成系の調節酵素として機能するδ-アミノレブリン酸合成酵素には、赤血球系で特異的に発現する赤血球型酵素(ALAS-E)と、広く一般の組織で発現する非特異型酵素(ALAS-N)の、2つの遺伝子が存在する。本研究の主目的はALAS-N遺伝子発現における転写調節の分子機構を解明することにあり、昨年度はラットALAS-N遺伝子の構造解析やプロモーター領域の塩基配列の決定を行った。本年度は、これを確認し解析をさらに進めるとともに、ALAS-N遺伝子調節機構解明の研究の一環としてALAS-Eのプロモーター領域との比較も行った。 1)薬物等に応答してALAS-N遺伝子発現を誘導する機序を十分に保持している肝培養細胞株を見出すことは、肝におけるALAS-N遺伝子転写調節機能を解明するために、特に遺伝子の発現に対する種々の転写調節シグナルの受取り手であるエンハンサーの機能を正確に評価する上で重要である。そこで、ラット肝癌由来H4-II-E細胞について調べた結果、succinylacetoneでヘム合成を抑制した場合、dexamcthazoneを同時添加するとALAS-NmRNAが増量することが知られた。これはALAS-N遺伝子発現調節におけるヘムを補助因子とする転写因子の存在やステロイドホルモン/GRE系の関与を本細胞株を用いて解析できる可能性を示唆するものである。 2)ラットのハーダー腺細胞ではALAS-N遺伝子の転写が非常に活発であるが、さらに他のヘム生合成系の酵素遺伝子について検討したところ、フェロキラターゼ以外は何れも転写が著しく昂進しており、ヘム生合成系が肝とは異なる転写調節状況にあることを支持する興味深い知見が得られた。 3)ヒトALAS-E遺伝子のプロモーター領域は赤血球系に特異的に発現する他の遺伝子と共通なシス要素を持ち、機能解析の結果GATA配列の重要性が示唆された。
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