動物におけるヘム生合成系の調節酵素として機能しているδ-アミノレブリン酸合成酵素には、赤血球系列で特異的に発現し、ヘモグロビンへのヘム供給に働く赤血球型酵素(ALAS-E)と、広く一般の組織で発現している非特異型酵素(ALAS-N)の、2種のイソ酵素が存在する.本研究では、本酵素の特に転写レベルに働く調節の分子機序を解明する目的で、ラットALAS-N遺伝子の構造解析を中心に研究を進め、いくつかの興味深い知見を得た。[1]ラットALAS-Nの遺伝子は約14kbの長さで、11個のエキソンより成り、遺伝子座はゲノムに1か所と推定された。10エキソンより成るニワトリALAS-Nでは翻訳開始点が第1エキソンにあるのに対し、ラットALAS-Nでは第2エキソンにあり、その約1kb上流に83bpの第1エキソンが確認された。一方、ラットの第3〜11エキソンはニワトリの第2〜第10エキソンによく対応していた。また、ALAS-N転写開始点は翻訳開始コドン上流103bpにあり、第1エキソンには多くのCpG配列が見られたが、ALAS-Eに見られるIRE様構造は存在しなかった。5'上流域約1.5kbの解析では、プロモーター領域にTATAボックス、CACCCモチーフ、NRF結合配列、さらに上流にNF-κB結合配列、CAATTモチーフ、熱ショック要素、GATA配列などが認められた。[2]ALAS-E(ヒト)についても比較したところ、その5'調節領域は他の赤血球系特異的に発現する遺伝子に共通なシス要素を含み、機能解析の結果GATA配列の重要性が示唆された。[3]予備的実験から、ラット肝癌由来H4-II-E細胞では、ヘム合成を抑制した場合、デキサメサゾンを同時添加するとALAS-NmRNAが増量すること、また、ハーダー腺では、ALAS-Nだけでなく、フェロキラターゼ以外の他のヘム生合成系諸酵素のmRNAレベルも高く、ヘム生合成系全体の発現調節が肝とは異なる状況にあると考えられること等本酵素転写調節機序を解明するための重要な手掛りが得られた。
|