研究概要 |
動物では終末代謝産物であり主として尿へ排泄される蓚酸は,そのカルシウム塩が水に〓溶であるため尿路結石の原因となる。特に,蓚酸過剰生産を主徴とする原発性高蓚酸尿症では、腎臓をはじめ諸臓器への蓚酸カルシウムの沈着が起こり.重篤な状態となる。蓚酸の主な前駆体はグリオキシル酸であるが,グリオキシル酸からの蓚酸生成機構が今以って不明である。三種の酵素がグリオキシル酸から蓚酸への酸化触媒活性を示すが,いずれも他に本来の役割を持っており,酵素の性質等からも,本来の基質が共存する生体内での蓚酸生成への実質的な関与は疑問である。本研究では蓚酸生成機構の解明を目指して,以下の実験を行った。1.チアゾリジン-2,4-ジカルボン酸(TDCA)からの蓚酸生成-グリオキシル酸は生体内SH化合物であるシステインに容易に付加しTDCAとなる。蓚酸がTDCAを介して生産される可能性を検討するため、マイクロプレートリーダーによる効率的な蓚酸生成法を開発した後,TDCAおよび関連化合物を投与(腹腔内および経口)したラットからの尿への蓚酸排泄を経時的に測定した。その結果,1.2mモルTDCAを経口投与すると蓚酸排泄は約6倍に増加し,この増加量は0.3mモルグリコール酸を投与した時とほぼ同じであった。現在,組織中蓚酸の定量法を開発し,TDCAからの蓚酸生成過程の解析を進めている。2.ペルオキシソームの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性-グリオキシル酸酸化活性を持つ酵素の一つであるLDHは代表的なサイトゾル酵素の一つとされているが,肝臓全体のLDH活性の約1%がペルオキシソームに存在することが明らかになった。グリオキシル酸生産の主たる細胞内部位はペルオキシソームであるので,このオルガネラにLDH活性を持つ酵素が存在することの蓚酸生成における意義は大きいと考え,現在同酵素を精製中である。
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