Wilms腫瘍の癌抑制遺伝子産物WT1が細胞の増殖、分化に果たす役割を明らかにすることを目的として研究を進め以下の結果を得た。 1.WT1蛋白質による細胞周期制御機構の解析 WT1cDNAをNIH3T3細胞に微量注入して過剰発現させる実験により、WT1がG1期に作用して細胞周期のS期への進行を抑制する機能をもつことを明らかにした。さらにCDK2/cyclin EあるいはCDK4/cyclin D1をWT1と同時に過剰発現するとWT1の効果が阻害されることを見いだした。また、WT1を過剰発現している細胞では、血清によるCDK2、CDK4、cyclin D1の発現誘導はおこるが、CDK2およびCDK4の活性亢進はおこらなかった。これらの結果から、WT1による細胞周期の制御機構にはCDK/cyclinの機能制御が重要であると考えられた。 2.WT1蛋白質による細胞分化制御機構の解析 WT1は白血病細胞やEC細胞の分化にともなって発現が低下すること、WT1を恒常的に発現させるとEC細胞がapoptosisをおこすことを見出した。したがって、WT1の発現低下は正常な分化に必須の現象であると考えられた。また、急性白血病ではWT1が異常発現しており予後と相関があること、WT1のPCRによる定量が残存白血病の検出に有用であることが明かとなった。 3.WT1結合蛋白質の同定 酵母を用いたtwo-hybrid systemを用いてWT1結合蛋白質をコードする可能性のあるcDNAを単離し、遺伝子産物がin vitroでWT1と結合することをみいだした。今後in vivoでのWT1結合能および機能の解析を進めて行く予定である。
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