グルコース輸送体の活性化をもたらす神経の作用とその調節機構

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04454172
• 研究機関: 愛媛大学
• 研究代表者: 嶋津 孝 愛媛大学, 医学部, 教授 (30090400)
• キーワード: 褐色脂肪培養細胞 / グルコース輸送 / GLUT4 / ノルエピネフリン / β_3-アドレナリン作働薬 / インスリン / 交感神経 / ワ-トマニン

研究概要

前年度において、細胞内へのグルコース輸送を促進する交感神経の作用機構を解析するためのin vitroの実験系として、褐色脂肪細胞の初代培養系を確立したので、本年度はこの培養細胞を用いて、グルコース輸送を促進するノルエピネフリン(NE)の作用機構をインスリンの場合と比較しながら追求した。NEによるグルコースの輸送促進効果は、NEの濃度ならびに作用時間に依存して増大し、ジブチリルcAMPも同様の促進効果があった。またNEの作用は、100分の1濃度のβ_3-アドレナリン作働薬(BRL37344)によって模倣されるので、β_3受容体を介して発現するものと考えられる。インスリンもこの細胞に対して促進効果を示したが、NEの作用とは相加的であるため、両者は異なる作用機構によってグルコース輸送を促進するものと思われる。事実、インスリンによるグルコース輸送の増大はインスリンの情報伝達系において重要な役割を果たすPI3-kinaseの阻害剤(ワ-トマニン)によって、完全に抑制されるのに対し、NEの促進効果は全く影響を受けなかった。さらに、インスリンを培養細胞に作用させた場合には、ミクロゾーム画分から細胞膜上へグルコース輸送体(GLUT4)が移動(細胞内移行)するためグルコースの輸送が増大するのに対し、NEを作用させた場合には、GLUT4の細胞内移行は認められず、細胞膜上のGLUTの増量を伴うことなしにグルコースの輸送活性が増大する機構に依存していることが判明した。細胞内へのグルコース取り込み速度のKm値とVmax値を測定すると、インスリン作用時にはGLUT4の細胞内移行を反映して、Vmax値は著しく増加した。一方、NEを作用させた場合にはVmax値はほとんど変化せず、Km値の著名な低下が認められた。

研究成果

• [文献書誌] 志水泰武: "Dexamethasone induces the GLUT4 glucose transporter,and responses of glucose transport to norepinephrine and insulin in primaty cultures of brown adipocytes" Journal of Biochemistry. 115. 1069-1074 (1994)
• [文献書誌] 箕越靖彦: "Regulatory mechanism of the ventromedial hypothalamus in enhancing glucose uptake in skeletal muscles" Brain Research. 649. 343-347 (1994)
• [文献書誌] 志水泰武: "Effects of wortmannin on increased glucose transport by insulin and norepinephrine in primary culture of brown adipocytes" Biochemical Biophysical Research Comunications. 202. 660-665 (1994)
• [文献書誌] 山下広高: "Reduced hepatic release of apoprotein B after enteral nutrition in rats" Biochimica Biophysica Acta. 1210. 329-334 (1994)
• [文献書誌] 志水泰武: "グルコース輸送を促進する交感神経の作用機構-褐色脂肪組織における解析を中心に" 愛媛医学. 13. 539-546 (1994)
• [文献書誌] 嶋津 孝: "筋肉エネルギー代謝の自律神経性調節" Nano GIGA. 3. 1109-1116 (1994)
• [文献書誌] 箕越靖彦: "糖尿病学 1994" 診断と治療社(東京), 202 (1994)