ヒト肝細胞癌の発癌機序:病理組織像と細胞動態細胞形質像遺伝子学性状との対比

1992 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04454179
• 研究機関: 金沢大学
• 研究代表者: 寺田 忠史 金沢大学, 医学部, 助教授 (30188677)
• 研究分担者: 佐々木 素子 金沢大学, 医学部, 助手 (70225895) ; 細 正博 金沢大学, 医学部, 助手 (20219182) ; 斉藤 勝彦 金沢大学, 医学部, 講師 (10205635)
• キーワード: 肝細胞癌 / 前癌病変 / 肝腺腫様過形成 / 細胞動態 / 類洞 / 病理組織像 / 病理組織計測 / 血行動態

研究概要

まず、北陸地方の小肝細胞癌と肝腺腫様過形成(AH)を集収し、110例のAHと30例の小肝癌を集めた。AHを組織的に検討し、通常型AH、異型型AH、癌内包型AHの3群に分類できることを見出した。AgNORとPCNAによる細胞動態の検討により、通常型AHは再生結節の大きなものと考えられ、肝癌の前癌病変とは思われなかった。一方、異型型AHは分裂能が高く、肝癌の重要な前癌病変と考えられた。癌内包癌AHは、さらに分裂能が高く、初期の肝癌と考えられた。また、AHと小肝癌の類洞内皮の免疫表現型を検討すると、通常型AHは、類洞内皮の性状に変化なく、異型型AHはABH血液型 ・UEAI・4型コラーゲン、第八因子関連抗原が陽性であることがあり、肝癌に近い像をとっていた。癌内包型AHでは、上記が陽性であり、肝癌と非常に近い像をとっていた。尚、小肝癌は上記が強陽性であった。これより、異型型AH→癌内包AH→小肝癌と進行するヒト肝癌発癌過程では、類洞内皮もその順に変化(毛細血管化)していくと考えられた。次にAHの血行支配を組織計測的に検討した。通常型AHでは、血管分布に変化がなかった。一方、異型型AHでは、動脈血の増加・門脈血の減少がみられ、肝癌では、完全に動脈支配であった。この様に、異型型AH→癌内包型AH→小肝癌という発癌過程で、血行支配に変化がおこると考えられた。次に、AHの病理組織診断を、組織計測的に検討した。その結果、核密度、核形性、核面積の増加が、AH内の癌病巣を認識するのに有用と考えられた。また、AHの原因を検討した結果、通常型AHは、HBV、HCV、その他に原因の肝硬変に発生していたが、異型型AHはとくに非A非B型肝炎に多くみられた。また異型型AHは、殆んど、肝細胞癌のある肝硬変に合併していた。以上より、ヒト肝発癌の一過程として、異型型AH→癌内包AH→小肝癌という過程が考えられた。

研究成果

• [文献書誌] Tadashi Terada.Yasuni Nakanuma: "Expression of ABH blood group antigens.receptors of ulex europaeus agglutinin.and factor8-related antigen on sinusoidal endothelial cells in adenomatous hyperplasia" Human Pathology. 22. 486-493 (1991)
• [文献書誌] Shuichi Terasaki,Tadashi Terada,et.el.: "Argyrophilic nucleolar organizer regions and α-feto-protein in adenomatous hyperplasia in human cirrhotic livers" American Journol of Clinical Pathelogy. 95. 850-857 (1991)
• [文献書誌] Tadashi Terada.Yasuni Nakanuma: "Exprssion of ABH blood group antigens.Ulex europaeus agglutinin I.and Type 4 collagen in the sinusoid of hepatocellular carcinoma" Archives Pathology and Laboratory Medicine. 115. 50-55 (1991)
• [文献書誌] Kazuhiko Ueda.Tadashi Terada.et al.: "Vascular supply in adenomatous hyperplasia of the liver and hepatocellular carcinoma:A morphometric study" Human Pathology. 23. 619-626 (1992)
• [文献書誌] Tadashi Terada,Yasuni Nakanuma: "Cell proliferative activity in adenomatous hyperplasin of the liver and small hepatocellular carcinoma" Cancer. 70. 591-598 (1992)
• [文献書誌] Tadashi Terada.Kazuhiko Ueda.Yasuni Nakanuma: "Histopathologic and morphometric analysis of atypical adenomatous hyperplasia of human cirrhotic livers" Virchows Archive [A] Pathological Anatomy and Histology. (1993)