心筋の虚血再潅流障害は虚血心筋組織に対する冠循環の再開により引き起こされる。その機序としてこれまで好中球とと内皮細胞の接着にみられるような免疫学的応答が、重要な役割を果たしていることを示唆する実験結果が示されてきた。本研究では再潅流障害による心機能低下と免疫学的応答をサイトカイン及び接着分子の発現の面から検討した。 実験はSupport ratを使用したラット摘出心血液潅流モデル(Langendorffモデル)を用いて37.5℃、25分の虚血及び60分の再潅流を行い、心機能低下及び免疫学的応答を調べた。心機能は左室内バルーンを用い測定し、左室収縮期圧の回復率は対照群で87.5±11.6%、再潅流群で55.1±5.8%であった。潅流血液中の好中球における接着分子の発現は、再潅流障害により影響を受けないことがFlow cytometryによる分析により示された。血液潅流を受けた摘出心におけるサイトカインmRNAの発現について、Semiguantitative Reverse transcriptase-polymerase chain reaction (Semiquantitative RT-PCR)により解析した。IL-6、IL-8、IFN-γ、TNF-αは正常心筋組織において低いレベルで発現したが、虚血及び再潅流により発現の増強を認めた。IL-1α、IL-1β、MCP-1、IL-1 receptor antagonistは正常心筋組織において発現しなかったが、MCP-1は15分の血液潅流、IL-1β、IL-1 receptor antagonistは25分の心筋虚血、IL-1αは虚血心筋の再潅流によりその発現が認められた。組織学的検討では再潅流群は心筋細胞間における浮腫性変化や間質内出血を示したが、大量の炎症細胞浸潤や心筋細胞の壊死性変化は認めなかった。 以上の結果からglobal ischemiaに引き続く再潅流の早期には、炎症細胞反応や心筋壊死などの組織学的変化を伴わない心機能障害過程が存在することが示唆された。
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