心筋の虚血後再灌流障害は虚血心筋組織に対する冠循環の再開により惹起される。我々は2つの異なるモデルシステムを確立し、その病態解析と治療方法を検討した。まず同系ラット間の異所性心移植モデルでは心摘出後室温にて60分放置(この間虚血となる)し、Ono and Lindsey の方法に準じて腹部大動脈及び下大静脈に移植する。再灌流を行うと非治療群では、虚血により低下したATP量が、再灌流によるO2提供にもかかわらず低値にとどまり、7例中6例で2週間以内に心拍動は停止する。再灌流後10分後より著しい間質の浮腫と好中球の血管内皮細胞への接着がおこり、1時間後には間質内出血と炎症細胞浸潤、6時間後には心筋変性が観察された。好中球や炎症組織の血管内皮に発現するユニークな接着分子に対するR2-1A6抗体を投与した。抗体は再灌流5分前に1mg/kg静注した。7例前例が14日間の観察中移植心の拍動を認め心筋内ATP値の回復とともに組織学的にも好中球の血管内皮への接着、浮腫、炎症細胞浸潤、心筋変性が抑制された。しかし異所性心移植モデルでは、reperfusion injuryに伴う血行動態の解析が不可能なため、“サポートラット"を用いたラット摘出心血液灌流モデル(Langen-dorffモデル)を作製した。25分間の虚血後60分間再灌流し左室収縮未期圧(LVESP)により心機能を測定、又経時的に心筋のサイトカイン遺伝子発現を検討した。各種サイトカインの中でIL-1αのみが特異的に虚血心が再灌流されることによって発現した。LVESPは再灌流後60分で灌流前の55%まで低下した。この系では好中球の心筋内浸潤は認められないにもかかわらずR2-1A6抗体の投与によりLVSEの低下がほぼ完全に抑制させた。2つのモデルを用いreperfusion injuryにおける心筋代謝、血行動態、組織学的変化サイトカイン発現及び接着分子の関与を解析することが可能となり、R2-1A6抗体の効果が確認された。
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