研究概要 |
本年度は主に分子生物学的方法により、ピリミジン合成第5段で、glycosomeに局在する可能性が高いorotate phosphoribosyltransferase(OPRT)の解析を中心に研究を進めた。Trypanosoma cruziの培養型虫体epimastigotesからゲノムDNA(gDNA)を抽出後、制限酵素Sau 3AIで切断し、様々な長さのDNA断片を調製した。そのうち1^〜5kbの断片をpUC118のBamHIサイトに結合した。これらをOPRT遺伝子欠損株の大腸菌に導入して形質転換し、選択培地で培養したところ、3万個中に6個生育可能なものが存在した。この内の1個を解析した結果、1.3kbのインサートを持つことが判り、これにはHincIIサイトが2ケ所存在した。このインサートのHincII断片の1つ(600bp)の塩基配列を決定し、他種生物OPRTの塩基配列やアミノ酸配列と比較したが、ホモロジーは見られなかった。現在、残りのHincII断片(700bp)の塩基配列を調べている。他の5個のインサートの長さはは2.2kb,1.5kb,1.5kb,1.4kb,1.2kbであることが判ったので、今後、これらの塩基配列を決定し、OPRTをコードする遺伝子が存在するかを検討する予定である。 さらに、T.cruziのgDNA,cDNAを鋳型とし各種のプライマーを用いてPCRを行ない、ピリミジン合成第1段のcarbamoyl-phosphate synthetaseII(CPSII)遺伝子の塩基配列を一部決めることが出来た。その結果、本酵素は単独蛋白である点は原核生物型酵素に類似しているが、サブユニット構造をとらず単独蛋白でsingle polypeptideである点は他の原核、真核生物に見られない独特な性質であることが判った。また、本酵素の成熟mRNAの5′端にはSL(spliced leader)が付加されること、すなわちtrans-splicingの機構が作用することが明らかになった。
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