研究概要 |
トリパノソーマ科原虫の核酸合成、特にピリミジンde novo合成は他の生物の場合と同様に6種の酵素の連続反応で進行する。本原虫類にのみ存在する特異な性質として、ピリミジン合成等5、第6段のorotate phosphoribosyltransferase(OPRT),orotidine 5'-phosphate decarbaxylase(OMP-DC)は特異な細胞小器官glycosomeに局在すると言われるが、詳細は不明な点が多い。そこでTrypa-nosoma cruziの培養型虫体epimastigotesの細胞分画を行ない、3800g沈殿、26000g沈殿、225000g沈殿および上清の酵素活性を測定し、電顕観察を行なった。その結果、両酵素活性は大部分26000g沈殿に回収され、同沈殿は電顕観察によりglycosomeと考えられる均一な一重膜袋状構造を含むことが判り、両酵素のglycosome膜結合性が強く示唆された。 以上の生化学的アプローチと平行して、分子生物学的方法により主にOPRT遺伝子のクローニングを試みた。得られた6個の候補DNA断片の内1個(1.3kb)を解析した結果、これにはHinc IIサイトが2ヶ所存在した。このインサートのHinc II断片の1つ(600bp)の塩基配列を決定し、他種生物OPRTの塩基配列やアミノ酸配列と比較したが、ホモロジーは見られなかった。現在、残りのHinc II断片(700bp)の塩基配列を調べている。他の5個のインサートの長さは2.2kb,1.5kb,1.5kb,1.4kb,1.2kbであることが判ったので、今後、これらの塩基配列を決定し、OPRTをコードする遺伝子が存在するかを検討する予定である。 さらに、T.cruziのgDNA,cDNAを鋳型とし各種のプライマーを用いてPCRを行ない、ピリミジン合成第1段のcarbamoyl-phosphate synthetase II(CPS II)遺伝子の塩基配列を一部決めることが出来た。その結果、本酵素は単独蛋白である点は大腸菌の酵素に類似しているが、サブユニット構造をとらずsingle polypeptideである点は他の原核、真核生物に見られない独特な性質であることが判った。また、本酵素の成熟mRNAの5'端にはSL(spliced leader)が付加されること、すなわちtrans-splicingの機構が作用することが明らかになった。
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