研究概要 |
本研究の最終年度にあたり,赤り菌の細胞侵入に関わるIpaB,C,D蛋白の上皮細胞侵入に於ける動態,特に菌体外分泌を中心に研究を行うと共に,それら遺伝子発現機構の解析も行い,以下に述べる知見を得た。(1)IpaB,C,D蛋白は赤痢菌表層へ分泌後は,菌体と結合した状態で存在するが,菌を上皮細胞あるいは極性分化した上皮細胞の基底膜側と接触すると,Ipa蛋白は特異的に遊離してくる現象を見い出した。(2)本現象はさらに菌を細胞外マトリックス(フィブロネクチン,ラミニン,コラーゲン)との接触でも認められ,従ってIpa蛋白の遊離と菌の細胞侵入は緊密な関係にあることが強く示唆された。(3)菌体から遊離したIpaBとCは複合体を形成し,IpaDと共に上皮細胞基底膜上のある種のレセプター様物質と,特異的に結合していることを認めた。現在このレセプターの同定を進行している。(4)Ipa蛋白の菌体表層への分泌とその遊離に関わる一群の蛋白をコードするSpa領域の詳細な遺伝子解析を行った。その結果本領域には8つのビルレンス遺伝子が存在し,その中の1つSpa3ZがIpaの遊離に関与していることを明らかにした。(5)Spa蛋白は菌体外膜蛋白として露出し,本蛋白はジスルフィド結合を1つ有する湾曲蛋白であることを示した。この蛋白形状は本蛋白の外膜移行に必須であり,実際ジスルフィド結合を有しない変異Spa蛋白は,Ipaの菌体外遊離能が消失していた。(6)ipaBCDの温度依存的発現を支配するvirBの転写に及ぼす,VirF,1+NSおよびDNAの高次変化を調べた。この結果VirFはvirBプロモーター上流領に,一方HN12プロモーター領域に各々特異的に結合し,virB転写を正と負に制御していた。(7)VirFによるvirB転写はDNAの負の超ら旋構造に依存して生じ,このDNA構造は赤痢菌を37℃で培養下に認められものとよい一致を示した。DNAの変化がvirB転写を37℃で促進すると結論された。
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