研究概要 |
百日咳毒素による白血球増多症の誘発と抗体による抑制を中心に、PTサブユニット及び各サブユニットに対するモノクローナル抗体を用いて研究を進めた。その結果モノクローナル抗体によるPTの各生物活性中和能と白血球増多症の抑制との間には必ずしも一致は見られず、叉更にPTの投与ルートにより白血球増多症に対する抑制効果が異なるモノクローナル抗体が見いだされた。我々はPTをマウス脳室内に投与する事により脳症を誘発し得る事を見いだし、このマウス脳症系をPT作用のユニークな解析の場として検討を加えている。マウスはPTの脳室内投与により脳症と共に末梢白血球の増多症を起こし、尾静脈内投与に比べ感度は低いが増多症誘発の経時的変化などのパターンには顕著な差は認められなかった。しかしモノクローナル抗体による中和の結果からは、S1及びS2が脳室内での作用により重要な役割を果たし、S3は末梢での作用がより大きく認められた。これらの結果はPTの細胞接着にはS2、S3が共に関与しているが、臓器、細胞及び周囲の化学物質環境の差異がS2,S3の役割のバランスに影響を与えてS1の酵素作用による情報伝達ひては生理作用に多様性をもたらしている事を強く示唆している。複雑な白血球増多症の発症機構及び脳室内でのPT作用に於けるPTサブユニットの役割に関する今後の研究に有用な材料と方法を提示した結果が得られた。叉、細胞に対するPTの初期作用として、これまでS2及びS3に注目していたが、S4とS1の立体構造との関係が作用の継続と特異性に深くかかわっている事を示唆する結果が得られた。これらの結果は最近発表されたPTの結晶構造からもサポートされた。
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