研究概要 |
百日咳毒素(PT)は、5種の異なるサブユニット(S1-S5)から構成され、ユニークで多彩な生物活性を内分泌系、免疫系、神経系、循環器系等で発現する。PTは、S2-S5の5量体部分(B)が細胞に結合してG蛋白のADPリボシラーゼ活性を持つS1を細胞内に送り込む事により作用を発揮すると考えられているが。Bを構成するサブユニットの細胞に対する反応特異性の解析は余り進展が見られていない。 本研究では、白血球増多症を中心に抗PTモノクローナル抗体を主要武器としてPTの接着因子として、情報伝達因子としての作用を解析した。我々はマウスがPTの脳室内投与により脳症を起こし、末梢白血球の増多症をも起こす事を見いだしたので、異なる投与ルートの系でのPTへのモノクローナル抗体の中和作用を解析した。その結果モノクローナル抗体によるPTの各生物活性中和能と白血球増多症の抑制との間には必ずしも一致は見られず、条件により微妙な差の生ずる事が認められた。モノクローナル抗体による中和実験からは、PT作用には全サブユニットが必要であるが、相対的に脳室内ではS1及びS2が優先的役割を果たし、末梢ではS3の作用がより重要である事、S1とS4が活性構造の保護及び発現に緊密な関係を構築している事を示唆する結果が認められた。これらの結果から、PTの細胞接着にはS2、S3が共に関与しているが、臓器、細胞及び周囲の化学物質環境の差異がS2,S3の役割のバランスに影響を与えてS4の構造変化を通してS1の酵素作用による情報伝達ひては生理作用に多様性をもたらしている考察される。本研究で得られた基礎データは複雑な白血球増多症の発症機構及び脳室内でのPT作用に於けるPTサブユニットの役割に関する今後の研究に有用な材料と方法を提示したと言える。
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