1.麻疹ウイルスの最近流行株の収集 麻疹ワクチン接種によって免疫が成立した後、数年から10年を経て麻疹流行時に麻疹に罹患する例が我が国や欧米諸国でしばしば報告されるようになった。最近流行株の抗原性の変化とそれの遺伝子レベルでの解析のため、新鮮分離株の収集を行った。 (1)麻疹ワクチン未接種の麻疹患者からの新鮮分離株:咽頭から分離した麻疹ウイルスを主体に末梢血からの分離ウイルス株、髄液からの分離ウイルス株を含めて、30数株を分離、収集した。 (2)麻疹ワクチン既接種者からの新鮮分離株:2名の患者から麻疹ウイルスが分離できた。1名は咽頭および末梢血から、他の1名は末梢血から分離できた。 2.麻疹ウイルスに対する各種の抗血清の準備 (1)患者血清:麻疹患者回復期血清および亜急性硬化性全脳炎(SSPE)患者の血清と髄液は収集した。 (2)抗麻疹ウイルス赤血球凝集素(H蛋白)単クローン抗体:9種類を準備した。 3.Hおよび溶血素(F蛋白)の抗原性とそれらの遺伝子の塩基配列の解析 感染防御に関連する麻疹ワクチンの抗原性はHとF蛋白に依存するので、麻疹ワクチン既接種者の麻疹患者から分離された麻疹ウイルスが抗原性を異にするか否かを検討するために、1.の(1)と(2)に記した麻疹ウイルスのコレクションからとりあえず時期と場所を同じくして分離出来た麻疹ウイルス株、すなわち麻疹ワクチン未接種患者および既接種患者それぞれ1名ずつの咽頭と血液から分離出来た株4株について、HおよびFの塩基配列をPCR産物からのダイレクト・シークエンスで決定することと抗原性の解析を開始した。現在のところ、Fの遺伝子についてのみ塩基配列の決定が終了しているが、株間で差異を確認していない。この他については、次年度に遂行したい。
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