I.最近の数年間に分離・収集した麻疹ウイルス流行株の中から、麻疹生ワクチンの接種を受け、一旦免疫が出来たが、数年後に麻疹に罹患した小児の末梢血リンパ球から分離した麻疹ウイルスおよび咽頭から分離したウイルスと、同一時期に同一地域内で麻疹に罹患した、ワクチン未接種の小児の末梢血リンパ球から分離したウイルスおよび咽頭から分離したウイルスを選択し、免疫反応に直接関与する赤血球凝集素(H蛋白)と溶血素(F蛋白)の遺伝子RNAの塩基配列を決定し、かつ、40年前および20年前のウイルスと生物学的性状を比較解析し、以下の結果を得た。 1)F遺伝子は上記の4株ともに同一塩基配列であった。 2)H遺伝子では患者が異なってもリンパ球由来はリンパ球由来で同一、咽頭由来は咽頭由来で同一で、リンパ球由来と咽頭由来のH遺伝子間にサイレント・ミューテイションが同一部位で1ケ所あった。 3)4株ともに、H遺伝子では416番目のアミノ酸がAspからAsnに変異し、糖鎖が1本付加されており、感染細胞表面での赤血球吸着現象は陰性であった。 4)マトリックス(M)蛋白の分子量が従来のウイルスに比べ、大きくなっていた。 II.抗H蛋白単クローン抗体からのエスケープ・ミュータント選択のための準備として、ウイルス分離に使用した浮遊系細胞のB95a細胞から接着性細胞のVero細胞への馴化を終了した。次年度にはエスケープ・ミュータントの選択とH蛋白遺伝子の塩基配列を決定できるものと考えている。
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