麻疹ワクチン接種を受け数年以上が経過した小児の中に、麻疹流行時に麻疹に罹患する小児が散発することから、現行麻疹ワクチン株と最近の麻疹流行株との間の抗原性のずれを解析した。 A)麻疹ワクチン再接種後の抗体反応 10年前に弱毒生麻疹CAMワクチンの接種を受けた小児11名に、同じCAMワクチンを接種、2週間後に採血して血清中の中和抗体価を測定した。比較のために、中和試験の攻撃ウイルスはCAMワクチン株と最近の麻疹流行株(F-b株)の2種を用いた。 陽性対照に用いたSSPE患者の脳脊髄液のCAM株に対する抗体価は2^<10.0>、F-b株に対する抗体価は2^<9.5>で攻撃ウイルスの株による差はなかった。しかし、ワクチン再接種後の血清のCAM株に対する抗体価は2^<10.1>、F-b株に対する抗体価は2^<8.3>で、ほぼ4倍の差があった。個々の小児については、11名のうち5名はCAM株に対する抗体価の方が8倍以上高く、その最高値は2^<11.5>であった。どちらの攻撃ウイルスに対しても最低値は2^<7.0>であったことから、抗原性のずれは示唆されたが、ワクチンの効果に影響するほど大きくはないと判断した。 B)麻疹ワクチン株と最近流行株におけるH蛋白とF蛋白のアミノ酸配列の相違 CAM株とF-b株のHおよびF遺伝子cDNAについて塩基配列を決定し、アミノ酸配列を推定した。H遺伝子では両者の間に59塩基の置換があったが、H蛋白ではサイレント変異のためにアミノ酸置換は26であった。このうち、8か所のアミノ酸置換はワクチン特異的であった。F遺伝子はH遺伝子より変異数は少なく、両者間で33塩基の置換があった。アミノ酸置換は7であり、6か所はワクチン特異的であった。どの変異が抗原性のずれに関係するかは今後の課題として残った。
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