研究概要 |
平成4年度の研究では体細胞突然変異がどのような遺伝子要素によって発現が制御されているかを明らかにするため,免疫グロブリン(Ig)遺伝子のプロモーターとエンハンサーで発現が制御されるレポーター遺伝子(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)(CAT)を移入したトランスジェニックマウスを作製し,CAT遺伝子にIgのV-D-J遺伝子と同様に体細胞突然変異が誘導されるかどうかを検討した。その結果,頻度は高くないがIg遺伝子と類似した発現分布をもつ体細胞突然変異をCAT遺伝子に認めた。このことは,Ig遺伝子のV-(D)-Jは体細胞突然変異のシグナルを提供していないことになり,プロモーターとエンハンサーの重要性が示唆された。この結果に基づき平成5年度は体細胞突然変異発現におけるプロモーターとエンハンサーの役割を明らかにするため,λ_1鎖遺伝子の体細胞突然変異の分布,および,その頻度を詳細に検討した。その結果,V_<λ1>-J_<λ1>には高い頻度の突然変異(3〜4%)が,また,不活性なV_<λ2>-J_<λ2>遺伝子にも同程度の突然変異が認められたが,プロモーター領域を含む5'ノンコーディング領域にはV_<λ1>-J_<λ1>の,おおよそ,1/(100)程度の突然変異を認めたにすぎなかった。同様に低い頻度の突然変異を5'ノンコーディング領域に認めたことから,プロモーター領域は,単にIg遺伝子の組織特異的な発現を制御するだけでなく,体細胞突然変異の発現に深く関与し、この機構の標的とならないよう保護されていることが示唆された。
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