研究概要 |
胸腺内分化過程におけるT細胞クローン選別の機構を分子レベルで明らかにするため,本年度は,胸腺ストローマ細胞と分化途上のT細胞との相互作用をクローンレベルで解析できるin vitroの実験系作製を試み,以下の結果と得た.1)各分化段階のT細胞クローンの供給源としてのT細胞抗原レセプター(TCR)トランスジェニック(TCR-TRG)マウス作製:OVA特異的I-Ad拘束性ヘルパーT細胞クローン(7-3-7)より単離したTCR-αとβ鎖のgenomicDNAをBDF1マウス受精卵に注入し,6匹のfounderを得た.この内,導入遺伝子を子孫に伝達し,かつ発現が確認されたのは2匹であった.これらTCR-TRGマウスより無感作状態で得た脾細胞は,7-3-7と同様に,OVA-peptide-323-339に著明に反応したが,OVA-peptide-324-334には反応しなかった.TCR-TRGの胸線細胞及び末梢T細胞ではCD4を優位に発現していた.従って,このマウスの胸線細胞は,認識抗原の明らかな特定T細胞クローンの供給源として利用可能である.またpositive selection解明のため,このTCR-TRgマウスをI-Ad以外のハプロタイプにする必要があり,現在B6マウスと交配中である.2)胸線ストローマ細胞クローンは既にTNC-R3.1及びI-Adトランスフェクタントを樹立した.このストローマ細胞とOVA-TCR-TRGマウスの胸線細胞をOVA-peptideと共に培養すると,CD4^+CD8^+細胞が特異的に減少した.またTCR-Vβ8を発現した他のTCR-TRGマウス胸線細胞を用いてsuperantigenであるSEBとストローマ細胞上で培養した場合も,同様な結果を得た.この際,CD4^+CD8^+細胞positive selectionを受けていない状態のTCR-TRG-マウスから得ても同様に減少した.これらの結果は,我々の胸線ストローマ細胞クローンとTCR-TGRマウス胸線細胞の共培養で,negative selectionのモデルが確立したことを示す.今後は,樹立したTCR-TRGマウスを利用したCD4^+CD8^+細胞からCD4細胞へのpositive selectionを誘導できる系を確立する予定である。
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