大気粉じん、ディーゼル排ガス、タバコ煙で汚染された室内空気、ゴミ焼却場灰等に3種の発癌性複素環状アミンが存在し、大気粉じん中のこれら発癌物質は夏期に濃度が低下し、冬期に増加することを昨年度までに明らかとした。本年度は、これら発癌物質の形成機序について特に検討を加えた。発癌性複素環状アミンの中で代表的なPhIPについて試験管内でモデルシステムを作成して、その形成機序を詳細に検討した。このモデルシステムは、クレアチニン(あるいはその誘導体)、糖あるいはアルデヒド(各種)、そしてフェニルアラニンを一定量混合し、蒸留水ないしリン酸バッファーの存在下で、37℃ないし60℃で加熱するシステムである。このシステムを用いて検討した結果、 (1)エリトロース、アラビノース、ガラクトース等いずれの糖も前駆体となりうる (2)クレアチニン誘導体であるクレアチン、クレアチンリン酸あるいはメチルグアニジンも前駆体となりうる (3)DNA、RNA中のペントースも前駆体となりうる (4)加熱条件は37℃でも60℃でもこの発癌物質を生ずるが、高熱の方が生成量が多い (5)各種アルデヒドも前駆体となりうる 以上の点が明らかとなった。これらの結果から、物質の燃焼過程で生ずると考えられる発癌性複素環状アミンの形成には、各種の糖から生ずるアルデヒドが関与していることが強く示唆される。また、食品の調理過程で形成されるこれら発癌性複素環状アミンの形成機序として食品中の各種糖やDNA、RNAが前駆体となっている可能性が考えられる。
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