大気粉じん、ディーゼル排ガス、タバコ煙で汚染された室内空気、ゴミ焼却場粉じん等の中に、3種の発癌性複素環状アミンが存在することを明らかとした。また、大気中のこれらの発癌物質レベルは夏期に低く、冬期に高くなることも明らかとした。大気中のこれら発癌物質の発生源としては、自動車排ガス特にディーゼル排ガス中に比較的高濃度存在することより、ディーゼル排ガスが発生源の1つと考えられる。また、ゴミ焼却場灰中には、微量ではあるが検出されることより、ゴミ焼却場粉じんも発生源となりうると考えられる。既に、タバコ煙中にはこれらの発癌物質の存在が明らかとされているが、タバコ煙の葉そのものにはこれら発癌物質は検出されていない。従って、これら発癌性複素環状アミンは物質の燃焼過程で生ずるものと考えられる。次に、発生機序に関しては、発癌性複素環状アミンの中で代表的と考えられるPhIPについて検討した。既に、PhIPはフェニルアラニン、ブドウ糖、クレアチニンの混合物を加熱すると生じることが知られている。この報告をもとに、モデルシステムを作成してPhIPの形成機序を検討した。この結果、エリトロース、ガラクトース、リボース等いかなる糖もPhIPの前駆体となりうることや、ホルムアルデヒド等のアルデヒドもPhIPの前駆体となりうることを明らかとすると共に、DNAやRNAの構成成分であるペントースもPhIPの前駆体となることを明らかとした。また、クレアチニンばかりでなくクレアチン、クレアチンリン酸、メチルグアニジンもPhIPの前駆体となりうることを示した。以上の研究結果より、検討した発癌性複素環状アミンは大気中など広く環境中に分布し、その発生源の1つはディーゼル排ガスと考えられる。また、形成機序としては、物質の燃焼過程で生ずるアルデヒドの関与が強く示唆された。
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