エイムステストによる変異原性の検定が発がん物質の第一次スクリーニングとして有効であるとされてきたが、最近の研究によれば変異原性と発がん性との一致率は、60%程度に低下している。エイムステスト陰性の発がん物質の第一次スクリーニングを開発することは衛生学領域において極めて重大な緊急課題である。本研究の目的はこれまで単離DNAで明らかにしたエイムステスト陰性の発がん物質によるDNA損傷がヒト培養細胞においても同様の機構で起こるかどうかをパルスフィールドゲル電気泳動法で解析することである。(1)パルスフィールドゲル電気泳動法により巨大DNA(0.1〜5×10^6塩基対)を分離するために基本的な条件を検討し、DNA損傷についてDNA二本鎖切断およびDNA一本鎖切断の定量法を確立した。(2)ヒト培養細胞(Raji細胞、HeLa細胞、HL-60)をAmesテスト陰性または変異原性の弱い発がん物質(カフェー酸、ヒドラジン類、トリプトファン代謝物(3-ヒドロキシルアントラニル酸や3-ヒドロキシルキヌレニン酸)で処理し、パルスフィールドゲル電気泳動を行った。マンガン(II)存在下でDNA損傷が認められ、カタラーゼ阻害剤で増強した。その結果、カフェー酸、ヒドラジン類、トリプトファン代謝物はこれまで検討してきたべンゼンやオルトフェニルフェノールやペンタクロロフェノールの代謝物などのAmesテスト陰性の発がん物質と同様に銅(II)またはマンガン(II)によって過酸化水素(H_2O_2)を生成し、このH_2O_2が遷移金属により活性化されDNA損傷をもたらすことが判明した。このようなAmesテスト陰性の発がん物質にはH_2O_2を介してDNA損傷をもたらす場合が多いことが推定された。
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