研究概要 |
平成4年度の研究により明らかになったメチル水銀中毒ラット脳におけるクレアチンリン酸(PCr)低下の意味をより明確にするために中毒脳、正常脳におけるATP代謝回転速度を磁化移動^<31>P NMR分光法を用いてin vivo脳で測定した。中毒ラットは昨年と同様に塩化メチル水銀(5mgHg/kg)の経口投与により作出した。ATP代謝回転速度はATPのgamma位のリン酸基と無機リン(Pi)の交換反応速度として、gammaATPの共鳴位置を選択飽和させ、飽和磁化の無機リン共鳴位置への移動の度合いをPiの減分として測定することにより行った。Piの減分DELTAPi/Piは、コントロール照射スペクトルとの差スペクトルより求めた。同様にgammaATPを照射しながら、飽和回復法によりPiの緩和時間T1┫D*┣D212を測定した。これよりDELTAPi/Pi=K┣D21┫D2/(1/T┣D21┫D2+K┣D21┫D2),1/T┣D21┫D2*=1/T┣D21┫D2+K┣D21┫D2によりPi→ATPの反応速度定数K┣D21┫D2を求めた。Piでの飽和移動の大きさDELTAPi/Piは、中毒ラット脳では0.217±0.035(n=4)、正常脳では0.262±0.057(n=5)であった。この値と、測定した値1.99±0.39s(中毒脳,n=5)、2.11±0.17s(正常脳,n=6)より前掲の関係式を用いて、Pi→ATPの反応速度定数K┣D21┫D2を中毒脳では0.109、正常脳では0.124と算出した。さらにそれぞれのPi濃度2.03±0.42(中毒脳,n=5)、1.73±0.11mumol・g┣D1-1┫D1(正常脳,n=6)を用いて、中毒脳におけるATPの代謝回転速度を0.221mumol・g┣D1-1┫D1・s┣D1-1┫D1、正常脳における値を0.215mumol・g┣D1-1┫D1・S┣D1-1┫D1と得た。この結果を中毒脳におけるPCr定常濃度の低下と考え合わせると、中毒脳においては脳活動の維持に必要とされるATP代謝回転速度は正常脳と同じに維持されているものの、酸化的リン酸化反応によるATP生成の最大速度が低下していると結論される。これは中毒脳におけるミトコンドリアの一部機能不全を意味する。
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