研究概要 |
ヒト肝癌細胞株HCC-MおよびHCC-Tを用いて,分化誘導剤sodium butyrate(SB)の添加培養の作用を検討した.正常肝細胞由来のChang細胞,ラット初代培養肝細胞をコントロールとして用いた.SB添加培養によりHCC-MおよびHCC-Tの増殖性は有意に低下したが,それに対してChang細胞の増殖は低下傾向にあったが,有意な低下ではなかった.ラット初代培養肝細胞に対しては増殖性の変化はみられなかったが,コントロールの培養でも増殖性が低く,この系の評価に関しては今後さらに検討を要すると考えられた.形態学的な変化に関してはHCC-M,HCC-T,Changの3者の細胞で,線維芽細胞様の細長い紡錘形に変化した.特にHCC-M,HCC-Tでは電子顕微鏡的に観察すると細長く変化した細胞内に線維構造が出現した.この構造がどのような性質を持つかは今後の検討を要する.アルファ-フェトプロテイン(AFP),アルブミンの発現に関してはHCC-MおよびHCC-Tにおける発現量が低いために評価が困難であったが,mRNAのレベルでの解析が必要である.癌遺伝子特に細胞の増殖に関与するmyc,fosなどの遺伝子発現の変化は,前にPLC/PRF/5細胞を用いて報告したごとくSBの添加培養に伴って変化した.細胞表面の抗原性の変化に関しては,細胞接着分子の一つであるICAM-1の発現がSB添加により増加し,またHLA class1抗原の増加もみられたが,HLA class2抗原に関しては変化がみられなかった.本教室で検討中の肝特異抗原の発現も増加した.以上のごとく,SBの添加により肝癌細胞は様々な面から変化しており,その変化は癌細胞の性質が減弱し,正常細胞の性質が増加する方向にあり,SBは癌細胞の増殖を制御し,悪性な性質をコントロールできる可能性のある薬物と考えられた.
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