研究概要 |
ヒト肝癌細胞株HCC-T,HCC-Mを用いてsodium butyrate(SB)添加培養による分化誘導を検討し、SBにその作用があることが判明した。平成4年度までに、この分化誘導中に細胞表面上の抗原の表出が変動することが明かにされ、その中でも我々の開発したマウスモノクローナル抗体に反応する特異抗原の表出変化が大きかった。平成5年度はそれまでに検討された抗原以外に新たにICAM-1,LGA-3などの細胞接着分子、laminin,fibronectinなどの細胞骨格蛋白の表出変化を検討した。その結果、laminin,fibronectinの表出が有意に低下し、これに伴い、これら肝癌細胞のlymphokine activated killer(LAK)感受性が有意に低下した。この変化はlaminin抗体により有意に抑制され、LAK感受性と肝癌細胞のlaminin表出に相関が見られた。SB添加による細胞内の変化に関しては、fla-2を用いてカルシウムの変化、ローダミン123を用いてミトコンドリア機能の変化、acridine orangeを用いて核DNAやRNAの変化を多機能デジタル生体顕微鏡を用いて検討した。その結果、それらの変化が微量に生じたが、変化の速度が定量的に経時的に測定するには早すぎたり、遅すぎたりし、現有の測定装置では評価することは困難であった。従って、計画した方法で分化を規定する細胞内の変化を捕えることはできなかった。しかしSBにより変化した細胞はローダミン123の特異蛍光は減弱せず、細胞障害とは異なる現象であること、また核DNAのfragmentationのみられぬことからapoptosisとも異なることが判明した。今後、SBの作用をin vivoにて検討することと、細胞表面に表出し、分化により大きく変動した肝特異抗原の解析と臨床的意義につき追及する必要性がある。
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