研究概要 |
本研究は、薬物を用いた分化誘導による肝細胞癌の増殖制御の可能性を検討し、臨床への応用の可能性を探索することを目的にした。ヒト肝癌細胞株HCC-T,HCC-Mを用いてsodum butyrate(SB)添加培養による分化誘導を検討し、SBにその作用が有ることが判明した。この分化誘導中に細胞表面上の抗原の表出が変動することが明かにされ、その中でも我々の開発したマウスモノクローナル抗体に反応する特異抗原の表出変化が大きかった。さらにICAM-1,LGA-3などの細胞接着分子、laminin,fibronectinなどの細胞骨格蛋白の表出も変化し、その中で、laminin,fibronectinの表出が有意に低下し、これに伴い、HCC-T,HCC-Mのlymphokine activated killer(LAK)感受性が有意に低下した。このLAK感受性はlaminin抗体で有意に抑制され、LAK感受性と肝癌細胞のlaminin表出に相関がみられた。SB添加による細胞内の変化に関しては、fla-2を用いてカルシウムの変化、ロ-ダミン123を用いてミトコンドリア機能の変化、acridine orangeを用いて核DNAやRNAの変化を多機能デジタル生体顕微鏡を用いて検討した。その結果それらの変化が微量に生じたが、変化速度が経時的に定量的に測定するには至らず、現有の測定装置では評価が困難であった。しかし、SBにより変化した細胞はミトコンドリア障害を起こさず、細胞障害とは異なる現象であること、また核DNAのfragmentationはみられぬことからapoptosisとも異なることが判明した。ヌードマウスにHCC-M細胞を移植し、SBを投与したが、腫瘍の増殖を明かに抑制することはできなかった。しかし投与量、投与方法に改善の余地が考えられた。以上より血液細胞と同様、肝癌細胞の様な固形癌細胞でも分化誘導が可能であり、それによって癌細胞増殖を抑制し、機能的に正常肝細胞に近く変化させることができることが明かとなり、臨床応用へさらに基礎的検討を重ねる必要がある。
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