筋緊張性ジストロフィー症(以下DM)は、常染色体優性の形式で遺伝し、全身の臓器が障害される難病で、成人の筋ジストロフィー症の中では最も頻度の高い疾患である。1992年初めに欧米のグループによって、DMの発症原因と考えられる(CTG)n繰り返し配列を3^7非翻訳部にもつcDNAが単離された。本研究では、日本人DM患者におけるこの(CTG)n繰り返し配列を含む不安定領域の遺伝子解析を行った。 健常人とDM家系の構成員の高分子量DNAを制限酵素で消化後、DMの原因遺伝子と考えられるcDNA25とサザンハイブリダイゼーションを行った。また(CTG)n繰り返し配列の回数と長さは、PCRを利用して決定した。さらに、以前から解析していたDM座位に近接する多型性遺伝子マーカーとの間の連鎖不平衡の有無を調べた。サザンハイブリダイゼーションでは、DM患者において数100bpから6kbまでの遺伝子の拡張が証明された。重症患者と若年発症患者において、長さの増加は著明であった。また、世代を経るにつれて長さが増大する傾向にあった。これは、これまで確認されている表現促進の臨床症状と一致した。(CTG)n繰り返し配列は、健常人では5回から35回の繰り返しであったのに対し、患者ではPCR産物は一本のバンドしか検出できず、50回以上の繰り返しバンドは検出できなかった。健常人の(CTG)n繰り返しの回数は多型に富み、日本人では13回の繰り返しが、白人では5回の繰り返しの頻度が最も多く、遺伝子頻度において両民族間に統計学的な有意差が存在した。cDNA25から20-30kb動原体側に離れたDNAマーカーであるP37.1が、DM遺伝子と強い連鎖不平衡を示すことや、解析したDM家系全例において、(CTG)n繰り返し配列の拡張がEcoRI消化の9.8kbの対立遺伝子に発生することより、本邦のDM患者は共通の祖先をもつ可能性があると考えられた。
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