研究概要 |
本研究は脳神経系に機能する神経栄養因子を分離精製しつつこれらの生理生化学的機能を分子レベルで明らかにし得られた知見を総合して老人痴呆発症機構ひいては治療薬の開発を目的としたものである。その結果,(1)マウス,ヒトNGF,ヒトNT-3に対して極めて高感度(検出感度約0.2pg/チューブ)で特異性の高い簡便な酵素免疫測定法を確立できた,(2)本法を用いて老人痴呆症患者血中や脳内各部位,脳脊髄液中のNGF,NT-3量を測定したが健常人と比較し有意な差は認められなかった,(3)クサリヘビ,ガラガラヘビ毒より分離し構造決定したNGFは他のヘビ毒NGFや哺乳類NGFと異なり糖蛋白質でありマウスNGFと同等の強い神経突起伸展活性を示した,(4)末梢に投与したNGFの脳内への移行は血中プロテアーゼによる消化,脳血液関門(BBB)のため困難と考えられる。このため脳内でのNGF合成促進作用をもちBBBを通過する低分子化合物を探索しこれらの化合物を末梢に投与し脳内NGF合成促進作用を介してアセチルコリン合成酵素の活性を高めコリン作動性神経細胞の賦活を行なうことによる治療薬の開発を企画した。その結果酸化還元酵素の補酵素に強いNGF合成促進作用のあること,カテコール化合物より細胞毒性が極めて弱いことがわかった。(5)脳障害ラットに20日間経口投与したベンゾキノン誘導体により海馬のNGF量の亢進とともにアセチルコリン合成酵素(CAT)活性の上昇が観察された,(6)サイトカインの中,IL-2は広範囲の培養中枢神経細胞に対し顕著な生存維持作用を,IL-4,IL-5,TNF-2はアストロサイトのNGF合成を著しく亢進したが、IFN-β,γは逆に抑制的に作用すること,IL-5は培養海馬神経細胞のCAT活性を上昇させるなどサイトカインは脳内NGF合成を介して脳神経細胞に作用することが明らかとなったが,これらの結果はサイトカインが神経回路網の修復機能維持に働く可能性を示唆しているなど多くの新しい知見を得ることが出来た。
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