研究概要 |
われわれの開発したEMC(encephalomyocarditis)による拡張型心筋症動物モデルでは、感染症ウイルスが消失した後も心筋細胞障害が持続し、ウイルスによる直接作用以外の細胞障害機序が考えられた。本研究ではウイルス性心筋炎における活性酸素の役割を明らかにするためPCR法を用いてスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)のメッセンジャーRNA(mRNA)を合成し、その発現と心筋細胞障害との関連を検討した。4週令Balb/cマウスにEMCウイルス100plaque-forming units(PFU)を腹腔内接種し、心臓からRNAを抽出し、ノザンブロット法を行った。さらに同心筋炎モデルにおいて心筋傷害を軽減したアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬CaptoprilおよびフリーラジカルスカベンジャーであるN,2mercapto-propionyl glycine(MPG)を感染後第4日から投与したマウスの心臓も同様に検討した、ノザンブロット法にはプローブとして、PCR法で作製したマウスMn-SOD,Cu/Zn-SOD,α-tubulinのcDNAを使用した。Captopril,MPG共に感染マウスの生存率を用量依存的に改善した。感染14日後の病理組織所見は、captopril30,100mg/kg,MPG8,25,75mg/Kg投与群で有意に減少した。ノザンブロット分析では、感染マウス心臓のMn-SOD mRNA の発現量は、感染3日後5.6±1.6,5日後9.9±1.8,7日後4.4±0.9と非感染群に比し有意に増加した。この増加は感染4日後よりのMPG75mg/kg投与により完全に阻止できた。また、Cu/Zn-SODについても同様の結果を得た。EMCウイルス性心筋炎において著明なSODのmRNA発現が誘導され、心筋障害に活性酸素が関与していることが示唆された。Captoprilは、心筋傷害を軽減したが、その作用はACE阻害作用に依存しているのではなく、SH基を持つことに依存していた。ウイルス性心筋炎の治療として、フリーラジカルスカベンジャーの投与が有効であることが示唆された。
|