慢性心不全患者のquality of lifeおよび生命予後を改善するためには、心不全の進行を予測し、早期に抑制することが重要であるが、その予測指標は未だ明かにされていない。申請者らは従来の研究で、慢性心不全患者においては、労作により拡張期左室圧-容積曲線が上方へシフトし、このシフトはβ遮断薬により抑制されることを明らかにした。この結果は、労作時の過剰な交感神経刺激が不全心筋の代謝に悪影響を及ぼすことを示唆する。したがって、労作に対する不全心筋の代謝応答あるいは脆弱性を、臨床的かつ非侵襲的に評価できれば、心筋不全の進行を予測する上で有力な指標になり得ると考えられる。平成4年度の研究において、拡張型心筋症(DCM)患者では単回労作により左室拡張機能の指標である心房収縮期と急速流入期の最大血流速の比(A/E)が増加し、この増加は24時間持続することを示した。しかし、A/Eは重症心不全では偽正常化することが知られており、重症例ではA/Eの増加が拡張機能の悪化を反映しない可能性がある。そこで平成5年度は、労作による左室拡張機能障害が遷延することを明らかにするため、DCM患者12例(DCM群)および健常人8名(対照群)を対象として、A/Eに加えて重症例でも拡張機能が評価できる指標として拡張早期波減速時間(DT)を用いて検討した。その結果、DTはA/Eと同様の挙動を示し、DCM群では運動により延長し、この延長は運動後24時間以上持続すること、一方、対照群では運動による変化を認めないことが示された。以上より、単回労作による左室拡張機能障害は少なくとも運動後24時間以上にわたり遷延することが明らかになった。この成績は、運動後のA/EおよびDTを評価することにより慢性心不全患者における運動後の遷延性左室拡張機能障害すなわち運動に対する不全心筋の脆弱性を非侵襲的に評価できる可能性を示し、運動後のA/EおよびDTが心筋不全進行の予測指標になり得ることを示唆する。
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