研究概要 |
血管内皮細胞由来アンチトロンビンIII親和性のヘパラン硫酸すなわち抗凝固活性ヘパラン硫酸と非凝固活性ヘパラン硫酸の蛋白部分には本質的な違いがない成績が近年提出されている。ならば、どのような分子機序でアンチトロンビンIII親和性ヘパラン硫酸が生成されるのだろうか。この問題を解決するのに全体的グリコサミノグリカン代謝は正常で、特異的に抗凝固性ヘパラン硫酸が欠如するモデルがあれば、極めて有用と考えられる。コンフルエントに達した培養ブタ大動脈内皮細胞に対し,(1)濃度依存的,(2)時間依存的に,ホモシステイン(H)を加え細胞表面に対する標識アンチトロンビンIII(AT-III)結合の差異を,(3)細胞表面のグリコサミノグリカン(GAG)量を^<35>S硫酸で標識定量し,対照と比較した。次に,(4)SH基を含む(システイン)と含まないアミノ酸(メチオニン,アラニン)及び還元剤のメルカプトエタノールについて,同様に^<125>I標識アンチトロビン3結合の差異を検討した。(5)細胞表面GAGのAT-IIIに対する親和性をアフィニティークロマトグラフィーを用いて,H処理細胞表面GAGと対照GAGとで対比した。AT-III結合実験では,対照に比し(1)H濃度(24h培養):0.1,0.5,1.0,5.0mMでは,各々,65,46,22,19%と低下し,(2)Hとの培養時間:6,12,24,48,72hでは,各々48,28,22,24,34%と24hで最も低下した。(3)^<35>S標識GAG量は,濃度,時間いずれも対照と比べ数%以上の低下はなかった。(4)システイン,メルカプトエタノールでは,対照に比し,各々35,21%と低下したが,メチオニン,アラニンではほとんど低下しなかった。なお,カタラーゼ(1000U/ml)存在下では,HのAT-III結合低下は抑制された。(5)AT-III親和性GAG量は対照と比べ,40〜50%の低下を示した。比較的低濃度のHは,細胞形態や他のGAGにはほとんど影響せず,細胞表面AT-3親和性ヘパリン様物質を減少させた。その作用には,H構造中のSH基によるfree radical関与の可能性が考えられた。これらのことは,H血症における血栓促進性を説明しうる新たな機序であり。また、特異的GAG生合成の機序を研究するのによいモデルとなりうると思われる。
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