研究概要 |
Na,K-ATPaseを構成するαとβの両サブユニット遺伝子に多数のアイソフォームがあるうち、各組織で普遍的に発現して体液のホメオスタシス的維持を基本的に担っているα1と、心筋組織等に特異的で循環系を介しての体液制御で重要なα2と、さらに中枢神経組織で特異的発現の知られるβ2の各5'上流の転写制御領域、またこれらに結合する制御タンパク質の同定を研究した。α1では、転写制御エレメント(ARE)に結合するタンパク質(HEBおよびARE6)のcDNAをサウスウェスタン・クローニングし、大腸菌で発現させたHEBおよびAREB6を用いて、結合領域を解析した。またゲルシフト法で認められる3種類の複合体(C1,C2,C3)のうちC3構成タンパク質を精製し、100KDと5KDの2種のバンドのうちで、DNA結合能をもつのは100KDタンパク質であることを明かにした。 α2上流域については、突然変異を組み込んだ遺伝子を培養細胞に導入した結果の解析から、少なくとも1個のE-boxと、合計3個のSp1および類似配列を含む領域が明かになり、最大転写活性のためにはSp1結合配列は協調的にはたらくことが判った。E-boxは抑制的エレメントであるが、結合するタンパク質はすでに報告されている因子とは異なる。 Sp1に対する結合配列は、α1,α2,β2のいずれの遺伝子の制御領域にも認められるが、各アイソフォームの制御領域ごとに、結合配列の配置および数は異なっており、他の結合因子との相互作用も、アイソフォームごとに同一ではない。 Na,K-ATPaseの発現制御による体液環境の維持は、多数の因子による複雑なネットワークを介して行われているという実態を、アイソフォーム遺伝子ごとの制御の特異性という面から示すことが本研究の眼目であり、その方向への本年の計画は、ほぼ予定の程度に遂行できた。
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