研究概要 |
今年度の本研究においては、従来行なってきたPCR法によるHTLV-1,結核菌,肺炎マイコプラスマの臨床検体からの検出に加え、逆転写酵素反応(reverse transcription,RT)を介したRT-PCR法による麻疹ウイルス(measles virus,MV)の検出が実用化した。 MV感染症の診断は、血清学的方法やウイルス分離により行なってきたが、いずれも迅速性、感度の点で制約を受け、retrospectiveに診断する場合が多かった。これに対し、RT-PCR法を行なう事により以下の知見が得られた。 1) 通常麻疹では、ウイルス血症が従来考えられていたよりも長期間存在し、発疹出現後8日目にも検出された。 2) 麻疹脳炎と診断された4例中3例の脳脊髄薄(CSF)からMVが検出された。検出時期は中枢神経系(CNS)症状の出現日および翌日に限られ、それ以後は検出されなかった。 3) 1才未満の乳幼児あるいは、ガンマグロブリン投与を受けた児に発症した非定型麻疹の迅速診断が可能であった。 4) 巨細胞性肺炎患者肺組織、SSPE患者脳組織などのホルマリン固定標本からもMVゲノムの検出が可能であった。以上の所見は、MV感染症の診断・検索に本法の有用性を示すものである。 肺炎マイコプラスマ感染症に種々のCNS症状が合併した。16例の血清及び脳脊髄液からの病原体DNAの検索をPCR法で実施した。明らかな脳炎症状に髄液細胞増多を伴なった9例中7例のCSFあるいは血清中から、本病原体DNAが検出された。このことから、髄膜炎を伴なう中枢神経系合伴症では、マイコプラスマの脳組織への直接侵襲の可能性が示唆された。 情報、検体を得る機会の限定される中枢神経系感染症の診断及び発症機構の解明に、PCR法の有用性が示された。
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