本年度の研究においては、主に結核菌、肺炎マイコプラズマ、麻疹ウイルス感染症診断におけるPCR法の応用に関して、成果が得られた。 1.結核については、1例のRFP、INH耐性菌感染症において、治療法の選択における本法の有用性が示された。本例は肺結核で、RFP、INHの投与により一時臨床所見・検査所見の寛解を見たが、経過中赤沈の再上昇を認め、その時点で胃内吸引物を用いた、PCR法による結核菌の検出が当教室に依頼された。その結果本法により結核菌DNA陽性の所見が得られたため、治療にPZAを加え、以後検査所見も正常化し、PCRによっても結核菌は検出されなかった。本法を用いて早期に結核菌の残存を確認し、より強力な治療法を選択した成果と考えられた。 2.肺炎マイコプラズマについては、胸水合併症例に関する知見が得られた。すなわち、積極的な排除を要する大量の胸水貯留を合併した5症例が得られ、このうち1例は、入院期間を1ヵ月間要し、退院時にも器質化した肺陰影を残した重症型であった。胸水を用いたPCRにより、本例のみから肺炎マイコプラズマのDNAが検出された。このことから他の4例のいわゆる異型肺炎に胸水を伴った病態とは機構の異なる、マイコプラズマ膿胸とも呼ぶべき病態の存在が示唆された。 3.麻疹については、麻疹生ワクチン接種歴を有する修飾麻疹に脳脊髄炎を合併した症例において、脳脊髄液中からPCR法にて麻疹ウイルスゲノムが検出された。この結果から、従来軽症に経過すると考えられていた修飾麻疹においても、通常の麻疹と同等の、中枢神経系にウイルスが到達する程度のウイルス血症が起こる場合の有ることが示唆された。以上、症例を中心に本年度の研究成果を述べた。これらの症例におけるPCRによる結果は、本法の有用性を示すものと結論された。
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