小児科領域においては、感染症の症状が非特異的かつ進行が速いことから、微量の遺伝子検出法であるpolymerase chain reaction(PCR)法の高感度・迅速性は極めて有意義な利点である。本研究においては、ヒトT細胞白血球ウイルスI型(HTLV-I)、結核菌、肺炎マイコプラズマ(Mp)、麻疹ウイルス(MV)、の4病原微生物につき、各種臨床検体を材料として、PCR法による検出を試みた。 9例のHTLV-Iキャリアー妊婦から得られた臍帯血単核球DNAを用いたPCRの結果、3例においてgag、pol、いずれのプライマーによっても陽性結果が得られた。本ウイルスが臍帯血中に存在する可能性の有ることを示唆する所見である。本研究期間中、臨床的に結核症と診断され、かつPCRにて陽性所見が得られた小児例は14例であった。このうち培養は3例のみ陽性であった。反対に、便から培養にて結核菌が検出されたが、PCRでは陰性であった例は1例のみであった。PCR診断の高感度を示す所見である。脳炎症状を呈して発症し、血清学的にMp感染症と診断された19例中10例の脳脊髄液から、MpDNAが検出された。Mp脳炎発症においては、本病原体の中枢神経系内の存在が重要な役割を演じていることを示唆する所見である。麻疹による急性脳炎4例から得られた脳脊髄液を用いたPCRの結果、中枢神経系症状発症1日以内に得られた脳脊髄液からは、4例中3例においてMVゲノムが検出された。通常の急性脳炎においては、本ウイルスは極めて早期に中枢神経系から排除されていると考えられた。 以上PCR法を用いることにより、HTLV-Iの母子感染、結核症の迅速診断、Mp、MVの中枢神経系感染において、重要な所見が得られた。本法は感染症の臨床研究において、重要な情報を提供する手段であると結論された。
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