研究概要 |
昨年度に続き、今年度も小児固形腫瘍と白血病において、これまでsequenceの判明しているP53遺伝の変異をSSCP(single strand conformation polymorphism)-PCR法にて検索した。P53遺伝子の突然変異の集積するexon5〜9の領域(codon130〜180)をカバーできる4組のプライマーを作成し、PCR法によりP53のDNA断片を増幅した。SSCP法を用いてDNA断片中に変異のあるものを見いだし、direct sequence法により変異部位を同定した。 (1)固形腫瘍:ユーイング肉腫(EW)14例中2例,細胞株7株中6株,横紋筋肉腫(RMS)22例中3例,細胞株4株中1株,神経芽腫(NB)50例中1例,細胞株8株中1株,ウイルムス腫瘍(WT)5例中0例,細胞株3株中1株でP53遺伝子の変異がみられ、多くはmissense mutationであった。(2)急性リンパ性白血病(ALL):T-ALL24例中3例,細胞株8株中7株,t(1;19)-ALL21例中6例,細胞株5株中3株,c-ALL20例中0例,B-ALL2例中2例、Ph1-ALL2例中0例に変異がみられた。 今回のP53遺伝子の変異の検討では、EWの細胞株で7株中6株,T-ALLの細胞株で8株中7株,t(1;19)-ALLの再発時腫瘍で5例中4例,細胞株で5株中3株,B-ALL2例中2例と高頻度であった。今回の結果より、P53遺伝子の変異は再発例や細胞株に高頻度でみられることが明らかになり、この変異は腫瘍の進展(progression)に関すると思われ、予後の指標になると思われた。一方NB,WT,c-ALL等ではP53遺伝子の変異はまれであり、発生年令の低い先天性素因の関与する腫瘍では頻度が低く,また発生母体(組織)の違いによって頻度が異なることが示唆され興味深い。現在RAS遺伝子とRB遺伝子の検討も行なっており,更に小児がん発生の高危険体質の早期分子遺伝学的診断の確立のため研究を続けていく予定である。
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