研究概要 |
根治性と機態温存という矛盾する要請を両立させる合理的な新しい癌手術術式を開発するには,リンパ系の局所解剖学の充実化が前提となる。本年は,腹部および骨盤内臓のリンパが集合する腹部大動脈周囲リンパ系の解剖を線密かつ精細に行なった。所見はスケッチ,写真に収めたほか,専門家のカメラマンによるビデオ撮影を行ない,目的に応じて編集した。作業にあたり留意した事柄は次のようである。 1)腹部大動脈周囲リンパ節およびリンパ管網と大動脈神経叢のからみ合いをヴィジュアル化して示した。とくに腰部交感神経幹から起こる左右の腰内臓神経が合体して上下腹神経叢を形成する付近のリンパ管網との錯綜状態をヴィジュアル化した。 2)胃壁沿岸の血管に沿うリンパ管を剖出して大動脈周囲リンパ節までの経路をヴィジュアル化した。とくに左噴門リンパ節から左下横隣動脈の噴門食道枝を遡行し,さらにこの動脈の本幹に沿うリンパ管について,行先を明らかにした。このリンパ管群は左副腎静脈に沿い大動脈外側リンパ節の腎茎上群に入るものと正中方向へそれて腹腔リンパ節へ行くものとがある。噴門のやや下方から出た胃後壁のリンパ管には,後胃動脈に沿って下行し、脾静脈幹リンパ節へ達するものとが認められる。 3)胆道周囲のリンパ節の下行路,とくに膵頭の後ろを下がるリンパ管群を剖出して示した。門脈の後ろで膵上縁の高さにあるリンパ節が1つのキーステーション・リンパ節であり,このリンパ節から出る輸出リンパ管は大動静脈間リンパ節の腎茎上群と下群に入る。またその途中で膵頭神経叢と複雑にからみ合う。 4)上記の胃・胆道のリンパ管群が中枢側で太くなったものは、上腸間膜動脈に沿う太いリンパ管と合し,腸リンパ本幹を形成しやすい。 5)以上の所見のヴィジュアル化は外科医術式開発に役立つと期得される。
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