研究概要 |
1.ラット腸型FABPにたいする抗体作製 精製ラット腸型FABPをウサギに免疫し,抗体を得たが,このポリクロナール抗体はヒト腸管との免疫交叉性がなく,現在,ヒト腸型FABPに対する抗体は作製できていない。 2.ラット正常小腸における肝型および腸型FABPの分布 ラット正常腸管における肝型と腸型FABPの分布を検討した結果,両者ともに小腸では空腸に最も多く,回腸,十二指腸の順で存在し,分布状況は同じであった。2種のFABPが脂肪の吸収に関与していることが示唆されたが,両者の役割分担の差異をみるために,脂肪含量の異なる食事負荷で検討した。高脂肪食負荷により肝型では空腸で有意にFABPの増加がみられ,脂肪負荷で誘導されることをしめしたが,回腸や十二指腸では変動はなかった。腸型では空腸,回腸とも増加し,後者において前者に比し有意の増加を示した点で肝型とは異なった動態を示した。低脂肪食負荷に対しては肝型,腸型とも通常食に比し有意差を認めなかった。 3.ラット大腸におけるFABPの分布 肝型は大腸でもかなりの量存在したが,腸型は存在せず,小腸とは対照的であった。生理的な脂肪の吸収は小腸で行われることから,大腸における肝型の存在は消化吸収以外の機能を予測させ興味深い点であり,アゾ発癌色素との親和性を有することからヒト大腸癌と肝型FABPの関連を検討した。大腸癌切除標本組織切片でPAP法によりFABP染色を行い,臨床病理学的因子との関連を検討し,癌の悪性度と関連を示すとされるDNA ploidy patternについても同一症例で検討した。1)大腸癌組織におけるFABPは高分化型腺癌で,低分化型に比し,強く染色される度合が多く,リンパ節転移陰性例や進行度(stage)の軽い症例で高染色例が多かった。2)染色程度と5年生存率との関係をみると,高染色群で低染色群に比し有意に生存率が良好であった。3)DNA ploidy patternとの関連ではdiploid群はaneuploid群に比しFABP高染色群が多く,両者に関連がみられた。
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