研究課題
本研究の重要な問題点は、細胞の封入に用いる材料の物質透過性などの物性と、封入した細胞の生存および機能維持、そして生体内埋め込み後の機能発現である。本年度は、おもに封入材の物性を検討するとともに、封入した細胞の機能性についても基礎的な検討を行った。新規材料としてアルギン酸とポリアリルアミン(PAA)とからなるコンプレックス膜を取り上げ、従来よりのアルギン酸ゲル、およびアルギン酸-ポリ-L-リジン(PLL)コンプレックス膜などと比較検討した。まず、アルギン酸-PAAコンプレックス膜の含水率および引張強度を調べたところ、PAAの濃度あるいはコンプレックス形成時間によらず、ほぼ一定であった。また、コンプレックス膜の種々のタンパク質拡散に及ぼすコンプレックス形成時間の影響を検討したところ、いずれのタンパク質の拡散係数も、コンプレックス形成時間の増加とともに、減少する傾向が見られた。なお、同程度の分子量をもつPAAとPLLとを比較したところ、コンプレックス膜のタンパク質透過性はほとんど同じであった。さらに、封入細胞の生存率について調べた結果、封入時に用いるカルシウムイオンが、細胞の生存率低下の大きな原因になっいるということがわかった。次に、封入された肝細胞の機能を測定したところ、アンモニア窒素減少量は封入の有無にかかわらず、ほとんど変化はなく、封入しても肝細胞のアンモニア代謝能は阻害されないことがわかった。以上より、アルギン酸-PAAコンプレックス膜が封入材として適当であることがわかった。今後は生体内に埋め込んだ細胞の機能性について検討する予定である。
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