研究課題
ヒト食道癌細胞TE-2をcloningして得られたE-カドヘリン(E-cad)(+)株(TE-2R)とE-cad(-)株(TE-2S)におけるEGFの細胞接着制御機構の解析では、TE-2RとTE-2SのEGFRの発現量はほぼ同量であるが、TE-2RはEGFにより細胞間接着が阻害され、遊走能と浸潤能の亢進が認められるもののTE-2Sでは変化がなかった。またTE-2R細胞ではEGF刺激によりE-cad関連タンパクであるβカテニンのチロシン燐酸化が認められた。以上の事からTE-2R細胞においては、EGF-EGFR系のシグナル伝達によりβカテニンが燐酸化されることにより、タンパクレベルではE-cadを発現していてもE-cadの細胞間接着機能が障害されることがわかった。以前に行なったヒト食道癌組織におけるE-cadとαカテニンの免疫組織学的検討では、E-cadが減弱しαカテニンが消失するものは細胞接着機能が障害されリンパ節転移をきたしやすいという結果であったが、生体内においては前述のようにβカテニンの燐酸化による細胞接着障害が起きている可能性も考えられる。そこでヒト食道癌におけるβカテニンの発現を検討したところE-cadやαカテニンの場合と同様に発現の減弱が高頻度に認められ、そのタンパクレベルでの異常と癌の細胞接着能障害との関係が示唆された。ヒト食道正常上皮と食道癌組織におけるβカテニンのチロシン燐酸化レベルを免疫沈降を用いたwestern blotting法により評価しており、そのレベルと細胞接着能との関係を現在検討中である。今後はさらにヌードマウスなどの浸潤転移モデルを用いて、これら細胞間接着障害と癌の浸潤転移との関係を検討していきたい。
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