体外循環施行時における凝固線溶系および血小板の活性化及び機能異常の発現する機序を解明する目的で成人開心術症例を対象に研究をすすめた。 1.体外循環開始後、TATおよびFPAなどの凝固系分子マーカーならびにPIC、FDP-D dimerなど線溶系分子マーカーの上昇が認められ、体外環境による著明な凝固系および線溶系に対する活性化が確認された。 2.血小板に引き起こされる変化は、血小板膜糖蛋白の粘着レセプターGPIb、凝集レセプターGPIIb/IIIa、および血小板膜表面に活性化依存性に出現する顆粒膜糖蛋白のGMP-140の変化をそれぞれに対するモノクローナル抗体を用いて測定し、血小板機能異常との関連を検討した。体外循環にともないGPIbは経時的に低下し、体外循環120分後には前値の64%にまで低下した。同時に洗浄血小板を正常血漿に浮遊し測定したristocetin凝集能も体外循環により著明な低下を示した。一方、GPIIb/IIIaは体外循環中も有意の低下も示さず、洗浄血小板によるADP凝集は90%以上に、collagen凝集能は85%以上に保たれていた。また、表面にGMP-140を発現した活性化血小板は、体外循環にて増加し、120分で最高値よに達し、有意の高値は体外循環終了1時間後まで続いた。これらの結果より、体外循環により血小板機能障害はおもにGMP-140をその表面に多く発現するに至った血小板の網内系などによる処理が体外循環後の血小板数の低下につながっているものと推察された。 3.以上のような体外循環における凝固線溶系および血小板における活性化、機能障害を予防する目的で、蛋白分解酵素阻害薬Nafamostat mesilate体外循環中に投与して、その効果をみたところ、凝固線溶系の抑制作用が確認され術後出血量の減少など止血機能の改善が認められた。現在さらに血小板に対する保護効果につき研究をすすめている。
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