平成5年度は二年目として、DNAレベルでのp53腫瘍抑制遺伝子の解析のまとめを行うとともに、免疫組織化学的手法を用いたp53の解析を開始した。また、他の遺伝子としてc-erbB-2遺伝子、網膜芽細胞腫遺伝子、染色体3番短腕、9番短腕の解析を開始した。 福岡大学、産業医科大学で切除された非小細胞肺癌120例におけるp53遺伝子の患者予後に及ぼす影響の解析は終了した。p53の突然変異は41/120(34%)に認められた。組織型別には扁平上皮癌(62%)が腺癌(28%)より高頻度であった。p53遺伝子の突然変異は有意な病期と独立した予後不良因子であることが明らかとなった。今回の検討ではp53の突然変異はエクソン5-8におけるもののみを検索しておりその意味では見落としもあると考えられたために、免疫組織化学的に突然変異によって半減期が延長し増量した蛋白を検出するアプローチも開始した。DNAレベルと蛋白レベルの異常の一致率は60%程度にすぎなかった。蛋白レベルの異常のもつ意義について解析を行う予定である。 癌遺伝子c-erbB-2遺伝子の免疫組織化学的検討と可溶性蛋白の血清中濃度測定を行った。組織中では腺癌の43%、扁平上皮癌の27%に発現が認められた。血清c-erbB-2蛋白量は対照群より高値であり、組織発現例で高値を示す傾向にあった。腺癌では病期の進展との関連が示唆され腫瘍マーカーとして有用である可能性がある。 microsatellite polymorphismを用いた染色体3番短腕のヘテロ接合性の喪失の検討を腫瘍と正常DNAペアのそろっている比較的最近の症例100余例で開始した。9番短腕の解析、網膜芽細胞腫遺伝子異常の解析は海外の研究室での共同研究という形で開始しており、次年度末までにはこれらの多くの遺伝子異常の臨床的意義の意義付けに関する知見が得られるものと期待される。
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