研究概要 |
本研究の目的は、肺癌における種々の遺伝子異常を検索し、この臨床的意義を考察することであった。まず、福岡大学と産業医科大学での切除された肺癌120例において、p53遺伝子突然変異を検討し、これは、特に進行病期症例で有意な予後不良因子であることを明らかにした。しかしながら、この研究対象となった集団は、二施設に及び、かつ必ずしも時間的に連続していないために、バイアスがかかっていると考えられた。このため、産業医科大学でのほぼ連続した129例を用いてその後の検討を行った。p53遺伝子の解析はDNAレベルと免疫組織学的検討の両方を行った。このコホートでは、p53の異常は腺癌症例では有意な予後不良因子であったが、扁平上皮癌では有意差がなく、予後に関する影響は、腺癌と扁平上皮癌では異なっていた。 次に、microsatellite polymorphismをもちいた3p,5q,9pのヘテロ接合性の喪失(LOH)の解析を行い、それぞれ51%、31%、23%での症例に認められた。早期症例の生存と一期症例の無病生存期間については3pLOH群は有意に予後不良であった。網膜芽細胞腫遺伝子rbの染色性の喪失は、22%の症例に認められ、これは、腺癌により高頻度であったが、予後との関連はなかった。 p53、ras、erbB2、3p、5q、9p、rbを考慮した多変量解析ではoverallの生存に関しては、切除の完全性のみが有意な予後因子であった。しかし一期肺癌の無病生存期間を用いた解析を行うと。3pのLOHは独立した予後不良因子であることがわかった。 以上の研究においてp53、及び3pLOHが今後の肺癌の診療に有用なマーカーである可能性が示された。しかし、一方で、今日一般臨床で用いられている、病期等を凌駕するような遺伝子異常は見出されず、この様なアプローチからのみでの肺癌の予後の改善の難しさも明らかとなった。
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