研究概要 |
ヒトグリオーマ細胞株を用い、PDGF,TNF,GM-CSF,IL-1などの成長因子あるいは成長抑制因子依存性増殖能とその受容体発現を解析した。また、グリオーマ細胞よりのIL-1,IL-2,IL-6,IL-8,PGE2,TNF,Mn-SOD,GM-CSFなどの産生をmRNA発現・蛋白産生定量・培養上清の生物活性に関して測定した。同時に神経膠腫患者より得られた髄液を解析することにより、これらサイトカインや増殖因子がin vivoすなわち腫瘍担体中枢神経系にて存在するか否かの検討も行った。ある種のグリオーマ細胞はPDGF刺激により増殖を促進しその増殖はtrapidilにて抑制された。TNFはグリオーマ細胞に対して殺細胞的に作用すると従来報告されていたが、生理的低濃度のTNFは細胞増殖抑制的に作用するのみであることが明かとなった。また、TNFの細胞増殖抑制効果とDNA合成抑制効果は、グリオーマ細胞のGO/G1細胞周期への集積効果と密接な関連があることが推定された。GM-CSFはグリオーマ細胞より産生されるがその増殖に影響を及ぼさなかった。グリオーマ細胞はPDGF,TNF,p55-IL1受容体を発現するが、GM-CSM受容体を発現しなかった。PDGF,IL-1,IL-6,IL-8,GM-CSFなどのサイトカインは無刺激の状態にてグリオーマ細胞より恒常的に産生されていた。TNFあるいはIL-1刺激によってIL-6,IL-8,GM-CSFの顕著な産生増加が生じた。TNFの脳腫瘍内投与によって、患者髄液中にはIL-1beta,IL-6,IL-8が増加したが、インターフェロン、IL-2,GM-CSFなど存在しなかった。検討を行った因子の中でも特にTNFは、グリオーマ細胞の増殖抑制と分化を誘導し、患者体液中のサイトカインの動態を大きく変動させ、腫瘍増殖・中枢神経系内免疫・炎症反応を抗腫瘍的に修飾することが臨床治験にても示唆された。
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