猫の側頭葉内側部にカイニン酸を注入して作成した慢性てんかんモデル動物では覚醒状態の行動をビデオモニターで観察し、同時に行った頭蓋内電極による連続脳波記録の結果と対比し、てんかん発作であることを確かめた。このてんかんモデル動物においててんかん原性病巣およびその周辺脳に刺入した微小電極により細胞内外電位を記録し分析した結果、病巣部と電気生理学的なてんかん原とは必ずしも一致しないことを見いだした。難治性てんかん患者では、側頭葉のみならず側頭葉以外にもMRI上異常病巣が高率に検出され、その多くはT2強調像およびプロトン強調画像で高信号域として描出された。これらの症例では通常の頭皮脳波のほか、蝶形骨誘導脳波記録、長時間脳波連続モニターなど非侵襲的方法を組み合わせることにより電気生理学的にてんかん焦点を決定できた。術前の発作間欠期のSPECTでは、この部位に一致し低潅流域を認めた。開頭術中、病変部の脳組織は正常脳と比べ硬く、異常な外観を呈した。皮質脳波、深部脳波、レーザドプラ法による局所脳血流計測、超音波断層でも術前の検査所見に一致する結果を得た。焦点切除術を行い、術後約60%の患者で発作の消失を、約30%で明かな改善を得ており、従来の頭蓋内電極法など侵襲的術前検索法を用いた方法と比べても手術成績は劣らなかった。発作改善例では、術前見られた攻撃性など精神神経学的な面での改善がみられQOLは明らかに上昇しており精神神経学的な改善効果は早期手術例で顕著であった。2例で切除病巣部およびその周辺の脳組織標本を対象に培養液へのGABA、その他の薬剤投与下に細胞内電位を測定したところ、焦点細胞の自発発火はなく、記録細胞近傍の刺激により、脱分極シフトを伴う頻回発射がみられた。MRIは切除すべきてんかん原性病変検索の際に最も重要な診断手段で、MRI所見を軸としたてんかん外科が今後主流になるべきと考えられた。
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