研究概要 |
外傷性てんかん焦点の形成には脳組織内に赤血球より遊離放出されたヘモグロビンと,続いて遊離する鉄イオンが深く係わっており,鉄イオンを介する活性酸素種,特にヒドロキシルラジカル(・OH)の過剰生成による神経細胞傷害が重要な役割を演じていること,および,ラットの鉄イオン誘導てんかん(外傷性てんかんのモデル動物)はエピガロカテキンなどの抗酸化剤によって抑制されることを明らかにしてきた。本年度の研究実績の概要は次のごとくである。 1.ラット鉄イオン誘導てんかん発作はアデノシンおよびその誘導体によっても著明に抑制されることがわかった。 2.ラット鉄イオン誘導てんかん焦点形成はラットを100%酸素下に飼育することにより著明に促進されることを,光顕および電顕により組織学的に示した。これは頭部外傷患者に対する受傷後の長期にわたる酸素供給が,過剰の活性酸素種を発生させ,すなわち酸化ストレスとなって,てんかん発作の発現を促進させる可能性を示唆するものであり,頭部外傷後の臨床的酸素療法に対して問題を提起した。 3.ラット脳に鉄イオンを注入すると,注入直後に一酸化窒素(NO)合成酸素(NOS)の活性が低下することを見いだした。NOはけいれんの発現に抑制的に作用しているので、NOS活性低下は外傷性てんかんの成因に関与している可能性がある。また内因性けいれん物質であるα-グアニジノグルタル酸はNOSの強力な阻害剤であることが明らかになった。 4.神経細胞膜の流動性を,高濃度の鉄イオン(II)は増加させ,(III)は減少させる。そのような神経細胞膜の流動性が,神経細胞機能障害に関与する可能性が示唆された。 5.ラット鉄イオン誘導てんかん焦点組織においてはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)が誘導されて増加することが免疫組織学的に明らかになった。
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