研究概要 |
脳腫瘍(神経膠腫)の遺伝子工学的診断を目的として、まず神経膠腫の発生、増殖、分化と第17番染色体短腕上に位置する癌抑制遺伝子であるp53遺伝子との関連性を検索した。その結果、主として神経膠腫細胞核内で発現しているp53は、生物学的半減期が著しく延長した変異型であることを、酵素免疫細胞化学および二次元電気泳動法により明らかにすることができた。次にこのような変異型p53が出現する原因を究明する目的で、培養ヒト神経膠腫細胞を用いてp53遺伝子の解析を試みた。その結果、変異型p53を発現している神経膠腫細胞では、p53遺伝子の11あるexonの内、conserved domainであるexon 5,7,8に欠失あるいは点突然変異が集中していることを明らかにすることができた。更にこれら遺伝子変異の塩基配列を解析した結果、KMG-4ではコドン151(exon 5)のプロリンがヒスチジンに、T98-Gはコドン237(exon 7)のメチオニンがイソロイシンに、U251-MGとU373-MGはコドン273(exon 8)のアルギニンがヒスチジンに変化していることが判明した。一方、開頭手術時に得られる生検神経膠腫組織を用いて、PCR-SSCP法により検索を行なった。その結果、29例の神経膠腫の内9例(31%)においてp53遺伝子の異常が検出された。こうした事などから、現在我々は正常神経膠細胞の腫瘍化の過程で、p53遺伝子の変異はrisk factorのひとつではあるが、それ以外にもいくつかの未知の重要な遺伝子が存在するものと考えている。
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