海馬CA1領域選択的細胞死の機構を分子および回路の両面から解明することを目指した。ラットにNMDAを一側海馬CA1に微量注入すると注入側海馬から対側海馬および大脳皮質に広がるてんかん波が伝搬し、ラットはてんかん重積となり注入側CA1錘体細胞死が生じる。しかしより強力なNMDA受容体アゴニストであるL-CCG-IVで同様の実験を行うと、同様のてんかん波伝搬および症状を呈するが、CA1細胞死は両側に生じた。背側海馬交連および脳梁を切断して注入すると、てんかん波は抑制されCA1細胞死は両側で軽減した。今まで他にこのような報告は全くされておらず、海馬CA1領域選択的細胞死にはそのグルタミン酸受容体の差と海馬内およびその入出力系の興奮性回路の関わりが明らかとなった。近年臨床的に難知性てんかんに対する脳梁切断術が改めて注目されてきたが、我々の結果はこの理論的支えになる。一方NGFファミリー、すなわちBGF、BDNFおよびNT-3の高感度抗体およびtrkファミリーの抗体を作成し、一過性脳虚血後の海馬での動態を検討した。その結果全てのNGFファミリータンパクが虚血後早期に発現上昇し、神経細胞死が生じる前の自己修復機転と考えられた。エンドセリンは初のET-1受容体アンタゴニストが開発され、まずそのイヌ脳血管攣縮抑制効果を現在検討した。その結果脳血管攣縮が軽減されることが判明した。脳虚血時にもエンドセリン受容体が発現することを我々はみており、本薬剤の虚血性神経細胞死に対する効果を検討している。
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