[方法]日本白色種家兎を用い、まずin vivoで静脈麻酔下に家兎の腕神経叢を展開し、肘部に通したキルシュナー鋼線よりピアノ線を介し、牽引装置(島津オートグラフAGS-500B)に接続し牽引速度10mm/minで引っ張り試験を行った。同時に電気生理学的複合活動電位(M波)を導出しながら、VDAsystemを用いてM波の振幅が消失したときの下神経幹のひずみを測定した。そしてM波の振幅が消失した後、即座に牽引を止め腕神経叢を弛緩させた状態でM波の振幅の回復状況を10分間観察した。次に家兎を犠牲にして下神経幹を摘出しその断面積を測定した後、牽引速度10mm/min.で引っ張り試験を行い、荷重変位曲線を作成した。これより腕神経叢の機能が低下したとき下神経幹に加わった荷重および応力を求めた。 [結果]in vivoの実験より、腕神経叢の機能が低下するとき下神経幹のひずみは8.5±0.8%であることが判明した。またin vivoの実験より、その時の下神経幹に加わる荷重は2.6±0.5N、応力は約1MPaであると推定できた。また、in vivoの実験で引っ張り試験施行後、M波の回復状況を観察したが、10分後には、大部分がほぼ100%の振幅の回復を認め、8.5±0.8%の神経幹の伸び率では、腕神経叢には一過性の(可逆性の)伝導障害すなわちneurapraxiaを生じさせるものと推定された。本研究により、従来報告のなかった腕神経叢の機能破綻を招くときの生体力学的挙動を追及することが可能となった。今後成熟群の結果を元に幼弱群および高齢群の結果について比較検討を行う。
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