研究概要 |
人工心肺による生命維持法extracorporeal life suport:ECLSが,欧米および我が国で普及期に入り始め,各種研究会が次々に発足している。これらの学会でしばしば論ぜられるECLSの適応は,どちらかというとECLSがうまくいかなかった場合でも,関係者が倫理的に責められないために,ベンチレータ療法だけでは90%患者が死亡するはずだとして決めた重症度の基準に過ぎない。 新しい治療法の適応決定に当たっては,どのように全身状態が悪くなったかだけでなく,どのうよな病態によって状態が悪化しているのか病態の原因,種類,救命可能性などを考慮する必要がある。しかも,医療の中には,将来の長い生命予後を期待できなくても,また病気を根治できなくても,現在の愁訴解決のため,あるいは疾病治寮のための時を稼ぐためにも必要な生命維持法もあることを忘れてはならない。 諸外国におけるECLSの適応や救命成績に関する資料を収集し,彼我の成績を比較しながら,より安全なECLSにすべく,ECLS回路各部の改良を進めながら,その安全性を動物実験で裏付けてきた。その中には,中空糸外部灌流型膜型人工肺や回路各部を連結し,また簡単に交換できるためのクイックコネクターの改良,ヘパリンに代わる抗凝固薬としてナファモスタットメシレートの大量,長時間使用の安全性確認などが含まれる。遠心ポンプの開発は,年度目標の一つであったが,同じアイディアのものが市販されたので,研究を中止した。血液凝固能その他測定のための間欠的自動採血装置の設計はできたが,プロトタイプを作るには至らなかった。平成4年度中に臨床例8例を加え,これまでの総症例数は52例となり,その救命率は略50%で,欧米の成績に匹敵するものであった。これらの成果を国内外の学会,講演会などで機会ある毎に紹介し,新しい治療法の安全化に対する啓蒙をはかることができた。
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