研究概要 |
開心術に伴う脳神経障害の原因の中で、空気や血栓による塞栓症は重要な位置を占めると考えられているが、その術中モニターに関しては未だ適当なものはない。冠動脈再建術症例で人工心肺中に螢光眼底造影を行うと、網膜細動脈の閉塞像が見られるとの報告があるが、これがmicrobubbleによるものか、どの程度の塞栓症によるものかは明かではない。 昨年度は反復造影に適した方法と空気塞栓の検出感度について検討した。この結果、螢光造影剤としてFluorescein isothiocyanate dextran(FID)を用い、空気と造影剤注入は舌動脈から逆行性に総頸動脈に留置したカテーテルから行う実験系を作製した。本法では平均血圧90mmHg以上の条件で空気塞栓の検出は0.2mlと考えられ、また、網膜細動脈の閉塞は1分以内であった。 今年度は、網膜空気塞栓への低血圧の影響について検討した。昨年度と同じ実験系を用いハロセン2MAC吸入と脱血により平均血圧を50mmHgとした。注入した空気量は0.2ml,0.4ml,0.6mlで、各空気注入直後、1,2,3,5,10分後に再造影をして網膜動脈の閉塞像の有無を検討した。この結果、全例で空気注入直後に細動脈の閉塞が確認され、低血圧下では正常血圧より再開通までの時間が延長し、また、注入空気量が多いほどその時間が延長する傾向を認めた。このことから人工心肺離脱時に低血圧を伴う場合には各種原因により生じた空気塞栓が脳血管内で停滞し脳虚血の原因となる可能性があると考えられた。
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